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Hell is a Place on Earth

隣の家に住む爺さんがうるさいと、過去に何度か記事に書いたと思う。

改めて書くが、隣のボロい戸建てに住んでる爺さんが、日中いつも怒り叫んでいる。テレワークの天敵である。集中できないし、電話会議の時は特に注意が必要だ。

そもそも何と言ってるか聞き取れないぐらい、魂の篭った絶叫なのだが、半年近くに渡る音声解析の結果、主に彼の台詞は下記の4パターンで成り立っていることが分かってきた。

「このやろおおおおおおお!!!」

「くたばれこのおおお!!!」

「化け猫んあーーーー!!!」

「ぅあああああああ!!!」

驚くほどの暴力性と、悲しいほどのボキャブラリーの貧しさ。大体この4つをランダムに発しているだけなので、最近では彼はもしやアクションゲームの敵NPCキャラなのでは?と思い始めている。

これまで俺は、爺さんは野良猫に対して怒鳴っているのだと思っていたのだが、しかし先日、驚愕の事実が判明した。爺さんの家の前を通った時にふと玄関を見ると、磨りガラス越しに白い猫の姿が見えたのだ。

飼い猫!?

自分の飼い猫だったの!?確かに、よくよく考えたら、野良猫に毎日叫ぶってのもおかしい。俺もたまーに野良ちゃんは見かけるが、毎日ってことはない。そもそも猫がいかに畜生でも、あんだけ狂気じみた罵声を浴びせられ続けたら、さすがに関わっちゃいけない奴だと学習するだろう。よっぽどのドMじゃない限りは。

いやしかし、あの猫の立場になったらゾッとする。もはやDVと言ってもいい。ジジイもジジイで、そんなに恨めしいなら何で一緒に住んでんだ・・・。今さら離婚できない熟年夫婦みたいなもんなんか?

仮に人間の子供に対してのそれなら、間違いなく通報するレベルの怒号なのだが、相手が猫となると難しい。俺が猫語を解さないのと同時に、おそらくは猫もジジイの言葉を理解していないのだから。「ミャオミャーオ(うちの主人ったらすごく情熱的なのよ)」と言われたところで。

まぁ、俺は全世界の猫ちゃんたちの幸せだけを祈る男であり、ジジイの血圧値にはさほど興味がないのであるからして、あれが双方の健全なコミュニケーションの形というのであれば別に干渉しないが、しかし願わくば周囲の住人の迷惑にならない音量に抑えてほしいものである。

だが、願いも虚しく、最近はより一層ジジイのボリュームが上がってきている。特に昨日がひどかった。いつになくヒートアップした爺さんの怒号は、まるで俺の部屋に闇金の取り立てが来ているかのような迫力があった。

当然ながら、その騒音に苦しんでいたのは俺だけではない。爺さんが叫ぶ度に、上の階の部屋から舌打ちが聞こえた。念のために言うと、舌打ちが特段でかいわけではない、アパートの壁が薄いのだ。

その舌打ちが爺さんに届くこともなく、爺さんの熱量はさらに上がる。そのうち、上の階の住人がイラついた感じで床を踏み鳴らし始めた。

やめれ。超響くから。

さらには、おそらくは通り挟んで向かいのアパートの住人が限界を迎えたのか、「うるせえぞおい!」とか「何なんだよ!」とか声を上げ始める。

だが、それでも当のジジイは気にも留めない。と言うか、多分聞こえてない。往々にして、年寄りの聴力というのは自分の声のデカさと反比例するものだから。

上がり続けるメインボーカルのボルテージ。呼応して激しさを増すのは上階で刻まれるビート。そして通りの向かいのバックコーラス。和光市のスラムで奏でられる、本物のストリートミュージック・・・

地獄かよ。

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